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物理AI基盤モデル入門|RT-2・GR00T・π0のちがいをやさしく解説

2026-08-13実践

#フィジカルAI#基盤モデル#VLA

「ロボットの世界にも、ChatGPTみたいな基盤モデルがあるらしい」——そんな話を聞いたことはありませんか?

RT-2、GR00T、π0(パイゼロ)。似たような響きの名前が次々に登場して、正直どれが何なのかよくわからない、という人も多いはずです。この記事では、そもそも「物理AI基盤モデル(ロボット基盤モデル)」とは何が新しいのか、そして代表的な3〜4個のモデルがそれぞれ何を得意としているのかを、比較しながら整理します。

この記事で分かること

  • 物理AI基盤モデルは「1つのタスクに1つのプログラム」から「1つのAIで多様なタスク」への転換
  • RT-2(Google DeepMind)・GR00T(NVIDIA)・π0(Physical Intelligence)は、それぞれ出自も得意分野も違う
  • この転換が「ロボット版ChatGPTモーメント」と呼ばれる理由と、産業へのインパクト

対象読者:VLAモデルの基本用語は知っていて、各モデルの違いを整理したいエンジニア・学習者

執筆:ゆるふわフィジカルAI編集部 最終更新日:2026年8月13日

なぜ「基盤モデル」が大きな転換なのか

これまでのロボット開発は、基本的に1つのタスクに1つのプログラムでした。「部品Aをつかんで箱に入れる」という動作をロボットにやらせたければ、そのためのコードを書き、その環境専用にチューニングします。棚の配置が変わったり、部品の形が少し違ったりするだけで、動かなくなることも珍しくありませんでした。

そこに登場したのが「物理AI基盤モデル」という考え方です。大量の画像・言語・ロボット動作データで事前学習した1つの大きなモデルが、指示文(プロンプト)を与えるだけで様々なタスクに対応する——これは、ChatGPTのようなLLMが1つのモデルで要約もコードも翻訳もこなすのと同じ発想を、ロボットの「体の動かし方」にまで広げたものです。

🛠️

従来のロボットプログラミング

  • タスクごとに専用コードを書く
  • 環境や物体が変わると再調整が必要
  • 新しい動作の追加に開発期間がかかる
  • 現場ごとにゼロから知見を積み上げる
VS
🧠

基盤モデルによる制御

  • 1つのモデルが幅広いタスクに対応
  • 見たことのない物体にもある程度汎化
  • 自然言語で指示するだけで新タスクに挑戦
  • 他社・他ロボットの知見も事前学習に活用
💡

「基盤モデル」という言葉について

基盤モデル(foundation model)はもともとLLMの世界で使われてきた言葉で、「大量データで事前学習し、様々な用途に転用できる汎用モデル」を指します。ロボット向けのそれは、しばしばVLA(Vision-Language-Action)モデルとも呼ばれます。

VLAモデルってそもそも何?(おさらい)

ここで登場する「VLA」は Vision(視覚)・Language(言語)・Action(行動)の頭文字です。カメラ映像と自然言語の指示を入力として受け取り、モーター(関節)を動かすための具体的な行動出力を返す——これがVLAモデルの基本的な役割です。

VLAモデルの仕組みそのものを詳しく知りたい方は、姉妹記事 VLA(Vision-Language-Action)モデルとは何か で丁寧に解説しているので、そちらを先に読むとこの記事がさらに理解しやすくなります。この記事では「VLAモデルという枠組みの中に、どんな具体的なモデルがあり、それぞれ何が違うのか」に焦点を当てます。

代表的な物理AI基盤モデルを比較する

ここでは、2026年時点で特によく話題にのぼる4つのモデルを取り上げます。それぞれ開発元も設計思想も異なります。

RT-2アールティーツー

Google DeepMindが2023年7月に発表した、VLA領域の先駆け的な存在です。既存の視覚言語モデル(PaLI-XやPaLM-E)をベースに、ロボットの行動を「テキストトークン」として出力させるという発想が特徴で、言語モデルが文章を生成するのと同じ仕組みでロボットの動作指令を生成します。オフィスのキッチン環境で13台のロボットが17ヶ月かけて収集したデータに、Web上の画像・言語データを組み合わせて学習しており、訓練データにない物体でも「これは即席の道具として使えそうだ」といった推論的な判断ができる点が注目されました。前身のRT-1と比べて未知タスクへの汎化性能が大きく向上したことが報告されています。

GR00Tグルート

NVIDIAが開発する、ヒューマノイド(人型)ロボット向けの基盤モデルです。2025年3月に「世界初のオープンなヒューマノイド向けロボット基盤モデル」として発表されたIsaac GR00T N1を皮切りに、N1.5・N1.6と継続的に改良版が公開されています。人間の思考モデルになぞらえた「デュアルシステム」構成が特徴で、状況を理解し計画を立てる比較的ゆっくりした推論部分と、それを高速な関節動作に変換する部分を分けて設計しています。モデルの重みが公開されており、NVIDIAのシミュレーション基盤(Isaac Sim / Isaac Lab)と組み合わせて、合成データによる学習・検証がしやすいのも特徴です。GR00Tを実際に手を動かして試すハンズオン手順は、姉妹記事 Isaac GR00T セットアップガイド にまとめています。

π0(パイゼロ)パイゼロ

ロボット基盤モデル専業のスタートアップ Physical Intelligence が2024年10月に発表したモデルです。約30億パラメータの視覚言語モデルをベースに、「フローマッチング」という拡散モデル系の手法を使い、最大50Hzという高頻度で連続的なモーター指令を出力できるのが特徴です。UR5e・Franka・双腕ロボット・移動ロボットなど8種類の異なるロボットのデータで学習しており、洗濯物たたみやテーブルの片付け、箱の組み立てといった、従来のロボットには難しかった複雑な家事・軽作業タスクをこなします。2025年4月には後継のπ0.5が発表され、「まず何をすべきかを高レベルに推論してから行動する」という階層的な仕組みと、Web上のデータも取り込む学習方法によって、訓練時に見たことのない住宅環境でも動作する汎化性能(オープンワールド汎化)を打ち出しています。

Helixヘリックス

ヒューマノイドロボット開発企業Figureが2025年2月に発表したVLAモデルです。GR00Tと同様に「速い動作制御」と「遅い状況理解」を役割分担させる設計を採用しつつ、指1本1本まで含む上半身の全身制御に対応しているのが特徴です。さらに、複数のロボットが同じモデルを共有しながら「一方が袋を持ち、もう一方が食品を詰める」のように協調してタスクをこなすデモも公開されており、単体の器用さだけでなく複数ロボット間の連携まで見据えた設計になっています。RT-2・GR00T・π0が研究発表や部分的なオープン化を伴うのに対し、HelixはFigure社の自社ロボット向けに閉じた形で開発が進められている点も特徴の一つです。

⚠️

ベンチマーク数値のとらえ方

各モデルの発表では「〇倍の性能向上」といった数値が示されることがありますが、比較対象のタスク・環境・評価方法がモデルごとに異なるため、単純な横並び比較はできません。この記事でも具体的なベンチマーク数値の断定的な比較はあえて避けています。気になる数値は、記事末の一次情報(論文・公式ブログ)で確認することをおすすめします。

ざっくり比較表

モデル開発元発表時期主な設計思想公開状況
RT-2Google DeepMind2023年7月行動をテキストトークンとして出力するVLAの先駆け研究発表(重み非公開)
GR00T(N1〜)NVIDIA2025年3月〜人型ロボット向け、思考と動作を分けたデュアルシステムオープンモデルとして公開
π0 / π0.5Physical Intelligence2024年10月/2025年4月フローマッチングによる高頻度・連続的な動作生成重み・コードを段階的に公開
HelixFigure2025年2月上半身の全身制御+複数ロボットの協調自社ロボット向け(非公開)
🌱

用語がまだあやふやなら

「基盤モデル」「デュアルシステム」「フローマッチング」といった用語自体をもう少し丁寧に整理したい場合は、フィジカルAI用語集 も合わせて読んでみてください。

なぜこの転換が業界にとって重要なのか

この流れが「ロボット版ChatGPTモーメント」とも呼ばれる理由は、単に技術がすごいからではありません。ロボット開発の経済性そのものを変えるインパクトがあるからです。

  • 開発コストの構造が変わる:タスクごとに1から作り込む必要が減り、基盤モデルを土台にした少量データでの微調整(ファインチューニング)で新しいロボットや用途に対応しやすくなります
  • 企業をまたいだデータ・知見の再利用:異なるメーカー・異なる形状のロボットのデータを1つのモデルに取り込む「クロスエンボディメント」という考え方が進み、業界全体でデータの蓄積が加速しています
  • 研究とプロダクトの距離が縮まる:GR00TやRT-2のように研究成果が比較的早くオープンな形で共有されることで、大学・スタートアップ・大企業が同じ土台の上で開発競争できるようになっています
  • ヒューマノイドへの投資が現実味を帯びる:人型ロボットが「特定作業専用機」ではなく「言葉で指示すれば汎用的に働く存在」に近づくことで、倉庫・製造・家庭といった幅広い現場での実用化シナリオが具体化しつつあります

もちろん、これらのモデルはまだ発展途上です。実環境での安全性、失敗時のリカバリー、長時間タスクでの一貫性など、解決すべき課題は多く残っています。それでも「タスクごとにゼロから作る」から「基盤モデルを育てて使い回す」への流れは、ロボット開発の主流になりつつあります。

まとめ

  • 物理AI基盤モデル(ロボット基盤モデル/VLAモデル)は、タスクごとにプログラムを書く従来のやり方から、1つのモデルで多様なタスクに対応する方向への転換を象徴する存在
  • RT-2はVLAの先駆けとして「行動をテキストのように出力する」発想を示し、GR00Tは人型ロボット向けにオープンな基盤モデルとして急速に版を重ね、π0は高頻度な連続動作生成と家事タスクへの強さで注目され、Helixは全身制御と複数ロボット連携に特徴がある
  • どのモデルも発展途上であり、ベンチマーク数値は評価条件が異なるため単純比較はできない点に注意
  • 各モデルの詳しい理論的背景はVLAモデル解説記事、GR00Tの実践手順はIsaac GR00Tセットアップガイドを参照

もう少し詳しく(背景)

これらの基盤モデルを支える技術的な工夫には、共通するいくつかのアイデアがあります。RT-2は行動を「テキストトークン」として表現することで、既存の大規模言語モデルの枠組みをほぼそのままロボット制御に転用しました1。一方でπ0が採用する「フローマッチング」は、拡散モデルの発展形にあたる手法で、離散的なトークンではなく滑らかで連続的なモーター指令を高頻度に生成するのに向いています2。またGR00TやHelixが採用する「デュアルシステム」的な発想は、人間の認知が直感的で速い処理と、じっくり考える遅い処理の2種類からなるという心理学の理論に着想を得たもので、ロボットの「考える部分」と「動く部分」の処理速度のミスマッチを解決する工夫として広がっています3

こうした基盤モデルは、実世界でロボットを動かして集めた実機データだけでなく、シミュレーション環境で生成した合成データによっても訓練されることが増えています。この点については Sim2Real実践ガイド遠隔操作によるデータ収集 の記事で扱っています。また、実際にπ0系のモデルを手元で動かしてみたい場合は、オープンソースのロボット学習フレームワークを扱う LeRobotチュートリアル も参考になります。フィジカルAI全体の基礎から知りたい方は、まず フィジカルAIとは? から読むのがおすすめです。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわフィジカルAI編集部 最終更新日:2026年8月13日

Footnotes

  1. ロボットの関節角度や位置などの連続的な動作を、言語モデルが扱う離散的な「トークン」の形に変換して出力する手法。言語モデルの仕組みをほぼそのまま流用できる利点がある一方、動作の滑らかさや出力頻度の面では工夫が必要になる。

  2. 拡散モデル(Diffusion Model)の考え方を発展させた生成手法の一つ。ノイズから徐々にデータを生成するプロセスを学習することで、連続値であるロボットの動作軌道を滑らかに、かつ高頻度で生成しやすいとされる。

  3. 心理学者ダニエル・カーネマンが提唱した「速い思考(システム1)と遅い思考(システム2)」という二重過程理論になぞらえた設計。ロボットにおいては、状況理解や計画立案を担う比較的低頻度な処理と、関節を実際に動かす高頻度な処理を役割分担させる目的で応用されている。

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