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パワードスーツ・外骨格ロボット入門|「着るロボット」が現場と医療を変える

2026-09-09入門

#フィジカルAI#外骨格ロボット#ウェアラブルロボット#ビジネス

2026年9月17日、フランスのWandercraft社が個人向けの自立歩行型外骨格「Eve」を米国で商用展開すると発表しました。同社の医療用外骨格は2026年8月にFDA(米食品医薬品局)の個人利用向け承認を取得しており、車椅子中心だった脊髄損傷者の生活に「歩いて移動する」という選択肢を持ち込もうとしています1。倉庫や建設現場での重労働アシストから医療リハビリまで、人の身体に直接まとう「外骨格ロボット(パワードスーツ・アシストスーツ)」は、フィジカルAIの中でも実装が最も進んでいる領域の1つです。

この記事では、外骨格ロボットの基本的なしくみ(受動型・能動型の違い)から、CYBERDYNE HALやINNOPHYSのマッスルスーツといった国内の代表プレイヤー、German BionicやSarcos、Wandercraftといった海外の最新動向、そして安全規格ISO 13482までを、ビジネス視点でやさしく整理します。

この記事で分かること

  • 外骨格ロボットは電力を使わない「受動型」と、モーター・センサーで能動的に力を加える「能動型」に大別される
  • 国内はCYBERDYNE(生体電位を読むHAL)とINNOPHYS(空気圧人工筋肉のマッスルスーツ、累計出荷4万台超)が代表格
  • 海外はGerman Bionic・Sarcosが物流・製造向け、Wandercraftが医療リハビリ向けで存在感を強めている
  • 安全規格ISO 13482が装着型ロボットの安全要求事項を定めており、HALなどが認証を取得している

対象読者:外骨格ロボット・アシストスーツの導入や関連ビジネスに関心がある方

執筆:ゆるふわフィジカルAI編集部 最終更新日:2026年9月9日

外骨格ロボットとは何か

外骨格ロボット(Exoskeleton)は、人間の身体の外側に装着し、関節の動きに合わせて力を加えることで、持ち上げる・歩く・支えるといった動作を補助する装置の総称です。日本語では「パワードスーツ」「アシストスーツ」「装着型ロボット」など呼び方が複数ありますが、業界的には電力を使わない受動型を「アシストスーツ」、モーターなどで電動的に力を加える能動型を「パワードスーツ」と呼び分けることが多いです2

📦

4万台超

INNOPHYS「マッスルスーツ」の累計出荷台数(2026年5月時点)

🏋️

38kg

German Bionicの新型外骨格「Exia」が1回の持ち上げで支援する重量の目安

📈

35.2億ドル

ウェアラブル外骨格の世界市場規模見通し(2026年、Fortune Business Insights)

物流・建設現場での重労働支援、介護・リハビリでの歩行支援、さらに医療分野での機能回復まで、用途は急速に広がっています。共通しているのは、「ロボットが人の代わりに作業する」のではなく、「人の動きにロボットが力を添える」という発想です。この点は、介護・生活支援ロボット入門で扱った移乗支援ロボットとも重なる、フィジカルAIの中でもとりわけ人に寄り添う応用領域だと言えます。

しくみで分ける:受動型(パッシブ)と能動型(アクティブ)

外骨格ロボットのしくみは、大きく2つのタイプに分けられます。

🔧

受動型(パッシブ)

  • バネ・ゴムなど機械的な力の蓄積・開放で補助
  • 電源不要で軽量・安価、故障しにくい
  • 補助のタイミングや強さは調整できない
  • 重い荷物の持ち上げ・中腰姿勢の維持などに向く
VS
🔋

能動型(アクティブ)

  • モーターやアクチュエータで能動的に力を加える
  • バッテリー・センサー・制御系が必要で重く高価
  • AIやセンサーで動作に応じた補助が可能
  • 歩行支援・リハビリなど繊細な動作補助に向く

受動型の代表がINNOPHYSの「マッスルスーツ」で、空気圧で膨らむ人工筋肉(ゴム製のアクチュエータ)がバネのように力を蓄え、前かがみになった姿勢から起き上がる動作を補助します。一方、能動型の代表がCYBERDYNE社の「HAL」で、皮膚表面に貼った電極が装着者の生体電位信号(脳が筋肉に送る微弱な電気信号)を検出し、本人が動こうとする意図を読み取ってモーターが動作を後押しします3

能動型外骨格の基本ループ(HALの例)

🧠

①意図の発生

脳が筋肉を動かそうとする信号を送る

②生体電位を検出

皮膚表面の電極が微弱な生体電位信号を読み取る

🤖

③モーターが補助

検出した信号から動作意図を推定し、関節部のモーターが力を加える

🚶

④動作の実現

装着者の意図した動きが、本来より少ない筋力で実現される

💡

『考えて動かす』わけではない

HALは装着者が念じるだけで動く装置ではありません。実際に筋肉を動かそうとしたときに発生する微弱な生体電位信号を検出しているため、装着者自身の「動こうとする意思」が前提になります。この点で、完全に自動で動く産業用ロボットとは補助の考え方が根本的に異なります。

代表的なプレイヤー:国内と海外

外骨格ロボットの分野は、日本発の企業が長年リードしてきた歴史がある一方、近年は海外勢の存在感も急速に高まっています。

企業・製品タイプ特徴
CYBERDYNE「HAL」能動型生体電位信号を検出するセンシング技術が特徴。医療用途では下肢タイプが承認を取得済み、労働支援用途でも導入が進む3
INNOPHYS「マッスルスーツ」受動型空気圧人工筋肉を使う軽量・安価な腰補助スーツ。累計出荷4万台を突破し、2026年もSoft-Power・Soft-ARMなど新製品を継続投入4
German Bionic「Exia」能動型2026年のCESで発表されたAI搭載の全身型エクソスーツ。装着者の動きを学習し、持ち上げ・歩行・運搬を継続的に最適化する5
Sarcos「Guardian XO」能動型(フルボディ)全身を覆うフルボディ型のパワードスーツで、重量物のハンドリング作業を主用途とする産業向け機体6
Wandercraft「Atalante X」「Eve」能動型(医療)自立バランス制御による歩行リハビリ用外骨格。2026年に個人利用向け「Eve」がFDA承認を取得し、同年9月に米国で商用展開1

自立バランス制御(セルフバランシング)じりつばらんすせいぎょ

杖や介助者の支えなしに、外骨格自身が重心をコントロールして転倒を防ぐ制御技術です。Wandercraftの外骨格はこの技術により、両手を使わずに歩行できる点が特徴で、脊髄損傷などで下肢が動かせない利用者でも装着者主導での歩行練習・移動が可能になります。

⚠️

『パワードスーツ』のイメージと実際のギャップ

SFに登場するような全身を覆う強化スーツを連想しがちですが、実用化されている製品の多くは腰・脚など特定部位に絞って補助する構成です。全身をカバーするSarcosのGuardian XOのような機体はまだ少数派で、多くの現場ではより軽量でシンプルな腰補助・歩行補助タイプが選ばれています。

安全規格:ISO 13482

装着型ロボットは人体に直接触れて力を加える性質上、安全性の担保が特に重要です。この分野の国際安全規格がISO 13482(生活支援ロボットの安全要求事項)で、2014年に発行されました。開発の土台となったのは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2009〜2013年度に実施した「生活支援ロボット実用化プロジェクト」で確立された安全試験手法であり、日本発の国際規格という色彩が強い規格です7

ISO 13482は、装着型(Physical assistant robot)、移動作業型(Mobile servant robot)、搭乗型(Person carrier robot)の3種類の生活支援ロボットを対象にしており、国内ではJIS B 8445として国内規格化もされています。CYBERDYNEのHALをはじめ、この規格に基づく認証を取得した製品が実際に流通しています7

🌱

規格認証は『お墨付き』であり『万能』ではない

ISO 13482の認証は、想定された使用方法・環境下での安全性を担保するものであり、誤った装着方法や体格に合わない機体の使用まで保証するものではありません。特に能動型は誤作動時に予期しない力が加わるリスクもあるため、メーカーが定める装着方法・体格条件・利用時間の順守と、現場での使用前トレーニングが欠かせません。

導入が進む現場と、これからの広がり

外骨格ロボットの導入が特に進んでいるのが、物流・建設・介護の3領域です。物流倉庫の自動化2026で紹介したピッキング作業や、建設・インフラ点検ロボット入門で扱う建設現場では、重量物の積み下ろしや中腰姿勢での作業が腰痛・労災の主要因となっており、比較的安価な受動型アシストスーツから導入が進みやすい傾向があります。介護分野では介護・生活支援ロボット入門で触れたとおり、移乗介助の負担軽減や、利用者自身の歩行機能維持を目的とした能動型の活用が広がっています。

医療分野では、Wandercraftの取り組みのように、外骨格が「作業補助」から「機能回復・生活再建」の手段へと役割を広げつつあります。FDA承認や医療機器としての規制対応が必要になる分、開発・上市のハードルは産業用より高くなりますが、脊髄損傷やリハビリ領域での臨床導入が世界的に進んでいる点は、この分野の成熟度を示す動きだと言えます。

まとめ

  • 外骨格ロボットは電力を使わない「受動型(アシストスーツ)」と、モーターで能動的に補助する「能動型(パワードスーツ)」に大別される
  • CYBERDYNE「HAL」は生体電位信号を検出する能動型、INNOPHYS「マッスルスーツ」は空気圧人工筋肉を使う受動型が代表格で、累計出荷4万台を突破
  • 海外はGerman Bionic「Exia」・Sarcos「Guardian XO」が物流・製造向け、Wandercraft「Atalante X」「Eve」が医療リハビリ向けで存在感を強めている
  • 安全規格ISO 13482(2014年発行、JIS B 8445)が装着型ロボットの安全要求事項を定めている
  • 物流・建設・介護の現場での重労働支援に加え、医療分野での機能回復支援へと役割が広がりつつある

もう少し詳しく(背景)

外骨格ロボットの源流をたどると、軍事用途の重量物運搬支援研究が1960年代からアメリカを中心に存在していましたが、実用製品として花開いたのは介護・労働支援という民生分野でした。日本では、筑波大学発ベンチャーであるCYBERDYNEのHALが2000年代から研究開発され、生体電位信号を利用するという着想の独自性から「世界初の装着型サイボーグ」として国内外の注目を集めました。一方、東京理科大学発のINNOPHYSは、空気圧人工筋肉という電源不要のシンプルな機構により、価格と扱いやすさの面で現場への普及を大きく前進させました。近年はこの2つの潮流に加え、German BionicのExiaのように「AIが装着者の動きを学習し、支援内容を継続的に最適化する」という第3の流れも生まれつつあり、外骨格ロボット自体がフィジカルAIの一分野として、物理AI基盤モデル的な学習アプローチを取り込みはじめています。医療分野では、Wandercraftのように臨床現場での実績を積み重ねたうえで規制当局の承認を取得し、段階的に個人利用へと適用範囲を広げていくアプローチが、今後の外骨格ロボットの信頼性構築のモデルケースになっていくと見られます。

次の一歩 🌸

物流現場での活用は物流倉庫の自動化2026、建設現場での活用は建設・インフラ点検ロボット入門、介護現場での活用は介護・生活支援ロボット入門、安全性の基本的な考え方はロボット安全規格2026へどうぞ。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわフィジカルAI編集部 最終更新日:2026年9月9日

Footnotes

  1. Wandercraft社の個人利用向け歩行外骨格「Eve」は、2026年8月に米FDAから個人利用向けの承認(クリアランス)を取得。同社は2026年9月17日に米ニューヨークでの発表イベントを経て、米国内での商用展開を開始する計画を示している。医療機関向けのリハビリ用「Atalante X」は、2026年7月にエクアドルの保健当局からも承認を取得するなど、世界各地で臨床導入が拡大している。 2

  2. 「アシストスーツ」「パワードスーツ」「装着型ロボット」といった呼称は業界内で厳密に統一されているわけではないが、電力を使わない機械的な機構のものを「アシストスーツ」、モーターなど電動アクチュエータで能動的に補助するものを「パワードスーツ」または「ロボットスーツ」と呼び分ける用法が広く見られる。

  3. CYBERDYNE株式会社が開発する装着型ロボット「HAL」。皮膚表面の生体電位信号を検出し、装着者の動作意図を推定してモーターが関節の動きを補助する。医療用途(下肢タイプ)と労働支援・介護用途の双方で展開されている。 2

  4. 株式会社イノフィスが展開する「マッスルスーツ」シリーズ。空気圧で伸縮する人工筋肉アクチュエータにより、腰にかかる負担を軽減する受動型のアシストスーツ。2026年5月に累計出荷台数4万台突破を発表し、同年は「Soft-Power」「Soft-ARM」など複数の新製品を投入している。

  5. German Bionic Systems社が2026年のCESで発表した新型エクソスーツ「Exia」。AIが装着者の動作パターンを学習し、持ち上げ・歩行・運搬時の補助を継続的に最適化する設計とされる。

  6. Sarcos Robotics社が開発する全身型のパワードスーツ「Guardian XO」シリーズ。重量物のハンドリングなど、産業・軍事分野での重作業支援を主な用途とする。

  7. ISO 13482は生活支援ロボットの安全要求事項を定める国際規格で、2014年2月に発行された。NEDOの「生活支援ロボット実用化プロジェクト」(2009〜2013年度)で確立された安全試験・検証手法を土台としており、装着型(Physical assistant robot)・移動作業型(Mobile servant robot)・搭乗型(Person carrier robot)を対象とする。国内ではJIS B 8445として規格化されている。 2

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