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手術支援ロボット入門|ダヴィンチ・Hugo・OTTAVAで変わる医療現場【2026年版】

2026-09-30 ・ ビジネス

#フィジカルAI#手術支援ロボット#医療#ビジネス

2026年7月、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)メドテックの手術支援ロボット「OTTAVA(オッタバ)」が、胃切除・脾臓摘出・小腸切除・虫垂切除など複数の一般外科手術を対象にFDA(米食品医薬品局)のデノボ(De Novo)分類を取得しました1。長年インテュイティブサージカル社の「ダヴィンチ」がほぼ独占してきた米国の手術支援ロボット市場に、世界最大級の医療機器メーカーが本格参入した瞬間です。同じ2026年にはメドトロニックの「Hugo」も適応拡大を重ね、これまで一強だった市場が一気に多極化しつつあります2。

この記事では、手術支援ロボットがなぜ必要とされているのか、マスタースレーブ方式という基本的なしくみ、ダヴィンチ・Hugo・OTTAVA・国産hinotoriという主要プレイヤーの最新動向、日本特有の外科医不足と保険適用の広がり、そしてAIによる自律手術研究の現在地までを、ビジネス視点でやさしく整理します。

この記事で分かること

  • 日本の消化器外科医(65歳未満)は2025年の約1万5,200人から2040年には約9,200人へ約39%減少し、5,200人の不足が見込まれている
  • 手術支援ロボットは術者がコンソールを操作し、手ブレを除去・動作を縮小してロボットアームに伝える『マスタースレーブ方式』が基本
  • 米国市場は長年ダヴィンチがほぼ独占してきたが、2026年にメドトロニックHugo・J&J OTTAVAが相次ぎ適応拡大・FDA承認を取得し競争が激化
  • 国産のhinotori(メディカロイド)は2026年にベトナム承認・欧州CEマーク取得と海外展開を加速。AIによる自律縫合の研究も進む

対象読者:医療機器・ヘルステック領域のロボット活用や関連ビジネスに関心がある方

執筆:ゆるふわフィジカルAI編集部 最終更新日:2026年9月30日

なぜ手術支援ロボットが必要とされているのか

手術支援ロボットの普及を後押ししている最大の要因は、患者にとっての低侵襲性(体への負担の少なさ)だけでなく、外科医そのものの深刻な不足です。日本消化器外科学会によると、同学会に所属する65歳未満の医師は2025年の約1万5,200人から、2040年には約9,200人まで約39%減少すると見込まれており、必要な手術需要を満たすには約5,200人が不足するとされています3。厚生労働省の検討会でも、現状の年間約500人という新規消化器外科医の確保数に対し、今後は年間約900人規模の確保が必要になると試算されています4。

📉

約39%減

消化器外科医(65歳未満)の2025→2040年の減少見込み

⚠️

5,200人

2040年に見込まれる消化器外科医の不足数

💰

106〜144億ドル

世界の手術支援ロボット市場規模見通し(2026年)

💡

ロボットは『外科医の代わり』ではない

手術支援ロボットは、外科医の判断や手技そのものを自動でこなす装置ではありません。あくまで術者の手の動きをより精密・安定的に患部へ伝えるための道具であり、ロボットハンド・グリッパーや触覚センサーの記事で扱った「繊細な操作をロボットにどう伝えるか」という課題が、人体という最も慎重さが求められる対象に適用された領域だと言えます。

しくみ:マスタースレーブ方式とは

手術支援ロボットの多くは「マスタースレーブ方式」と呼ばれる制御方式を採用しています。

マスタースレーブ方式(ますたーすれーぶほうしき)

術者が操作する「マスター(親機)」側のコントローラの動きを、患者の体内に挿入された「スレーブ(子機)」側のロボットアームがリアルタイムに再現する制御方式です。産業用ロボットの遠隔操作(テレオペレーション)と基本原理は同じですが、手術支援ロボットでは手ブレの除去や動作スケールの縮小(大きな手の動きを数ミリ単位の精密な動きに変換する)が加わる点が特徴です。

手術支援ロボットの基本ループ

🕹️

①コンソール操作

術者が離れた操作卓(コンソール)でハンドルを操作する

→
📉

②スケーリング

手の動きを縮小し、生理的な手ブレを電子的に除去する

→
🦾

③アームが再現

体内に挿入したロボットアームが動きを精密に再現する

→
📷

④3D立体視

内視鏡カメラの映像を3Dでコンソールに表示し奥行きを把握する

🔧

従来の腹腔鏡手術

  • 直線的な鉗子で、関節の自由度が乏しい
  • 術者の手ブレがそのまま器具の先端に伝わる
  • 2D画面での平面的な視野
  • 習得までのトレーニング期間が長い傾向
VS
🤖

ロボット支援手術

  • 多関節アームで人の手首のように曲がる
  • 手ブレ除去・動作縮小で精密な操作が可能
  • 3D立体視で奥行きを正確に把握できる
  • コンソール上で拡大表示しながら操作できる
⚠️

力覚フィードバックはまだ発展途上

人間の手は「どれくらいの力で組織を押しているか」を感覚的につかめますが、多くの手術支援ロボットは力覚・トルクセンサーの記事で扱ったような触覚のフィードバックが限定的です。代わりに視覚的な情報や画面上の警告表示で力加減を補う設計が主流で、触覚を電子的にどこまで再現できるかは、この分野が抱える技術的な課題の一つです。

世界の主要プレイヤー:独占から多極化へ

手術支援ロボット市場は長年、米インテュイティブサージカル社の「ダヴィンチ」がほぼ独占してきましたが、2025〜2026年にかけて大手医療機器メーカーの参入が相次ぎ、状況が大きく変わりつつあります。

製品・企業立ち位置2026年の主な動き
ダヴィンチ5(インテュイティブサージカル)市場をリードする第5世代機。日本でも2025年7月に販売開始2026年1月、心臓弁形成術など心臓外科領域の術式でFDA適応拡大を取得。日本国内の稼働台数は2025年12月時点で870台超56
Hugo RAS(メドトロニック)泌尿器科領域から適応を拡大中の新興プレイヤー2025年12月に米国で泌尿器科領域のFDA承認取得。2026年6月に一般外科・婦人科領域の510(k)申請、9月に血管シーリング機器LigaSureのFDA承認を取得728
OTTAVA(ジョンソン・エンド・ジョンソン)2026年に米国市場へ本格参入2026年1月にFDAへ申請書類を提出、同年7月にデノボ分類を取得し胃切除・脾臓摘出などの一般外科手術で承認1
hinotori(メディカロイド)川崎重工業とシスメックスの合弁が手がける国産機2020年に国内承認。2026年6月にベトナムで販売承認、同年7月に欧州MDRに基づくCEマークを取得し海外展開を加速910
🌱

国産hinotoriが狙う『世界で戦える道』

hinotoriは、国内の医療機関向けに開発されたロボットが、ベトナムや欧州といった海外市場に展開されている点が特徴的です。日本のフィジカルAI国家戦略で紹介したような「国内で実績を積んでから海外へ」という展開パターンは、産業用ロボットだけでなく医療機器の分野でも見られる動きです。

日本特有の事情:保険適用の広がりと外科医不足への処方箋

日本では、ロボット支援手術は当初、腎悪性腫瘍手術と前立腺悪性腫瘍手術の2術式のみが公的医療保険の対象でした。2018年度の診療報酬改定で、胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術や腹腔鏡下胃切除術、腹腔鏡下直腸切除術など新たに12術式が保険収載され、これを契機に対象術式は段階的に拡大してきました11。保険適用の広がりは、病院側が高額な導入コストを回収しやすくなる要因の一つであり、ロボット導入のROI計算の記事で扱った投資回収の考え方が、医療機関の設備投資判断にもそのまま当てはまります。

一方で、保険適用が広がっても、ロボットを操作する外科医そのものが足りなければ手術件数は増やせません。冒頭で触れた外科医不足は、単純な「自動化で人を置き換える」話ではなく、物理AIと雇用・倫理の記事で扱った「人手不足のため、むしろ自動化・省力化への期待が高まる」構図が、医療という対人性の極めて高い領域でも起きていることを示しています。ロボットが外科医の技術を底上げし、1件あたりの手術時間や回復期間を短縮できれば、限られた外科医でより多くの患者に対応できる可能性があるからです。

AIとの融合:自律手術は実現するか

手術支援ロボットの次のフロンティアとして注目されているのが、AIによる自律的な動作支援です。カリフォルニア大学バークレー校のケン・ゴールドバーグ教授の研究室は、ダヴィンチの研究用プラットフォーム(dVRK)上で模擬組織への縫合を自律的に行うロボットを開発し、模擬皮膚に6針を自律的に縫う実験に成功しています12。また2025年に発表された「SutureBot」という研究では、針の把持から組織への刺入、結紮(けっさつ)までを含む自律縫合のベンチマークが構築され、縫合位置の精度がタスク特化型の手法に比べて59〜74%向上したと報告されています13。

🌱

『自律手術』はまだ研究段階

これらの研究はいずれも、実際の患者ではなく模擬組織や動物実験での成果であり、熟練外科医の水準には及びません。完全自律型の手術が臨床現場に導入されるには、精度の向上だけでなく、安全性の検証や責任の所在といった倫理的・法的な論点の整理が不可欠だと研究者自身も指摘しています13。当面は、縫合などの特定サブタスクを「AIが補助し、術者が監督する」形の**拡張デクステリティ(Augmented Dexterity)**が現実的な実装の方向性とされています。

このアプローチは、器用な操作(ハンド)の最前線で紹介した、触覚センサーとAIを組み合わせて繊細な操作を実現する取り組みと根っこの部分で重なっています。手術という極限まで精密さが求められる領域での研究成果は、産業用ロボットの器用な操作技術にも波及していくと見られます。

まとめ

  • 日本の消化器外科医(65歳未満)は2040年に約5,200人不足すると見込まれ、手術支援ロボットへの期待を後押ししている
  • 手術支援ロボットは「マスタースレーブ方式」が基本。動作のスケーリングと手ブレ除去で、多関節アームが精密な操作を再現する
  • 米国市場は長年ダヴィンチがほぼ独占してきたが、2026年にメドトロニックHugoとJ&J OTTAVAが相次ぎ適応拡大・FDA承認を取得し多極化が進んでいる
  • 国産hinotori(メディカロイド)は2026年にベトナム・欧州へ展開を拡大し、国内実績を武器に海外市場を狙う
  • AIによる自律縫合の研究は進展しているが、実用化はまだ研究段階。当面は「AIが補助し、術者が監督する」形が現実的

もう少し詳しく(背景)

手術支援ロボットの歴史は1990年代の軍事・宇宙分野向け遠隔手術研究に端を発し、2000年のダヴィンチのFDA承認以降、約20年にわたってインテュイティブサージカル社がほぼ独占的な地位を築いてきました。これは、手術という極めてリスクの高い領域では、臨床データの蓄積と規制当局の信頼獲得に長い年月がかかるためです。2026年に相次いだメドトロニックやJ&Jの適応拡大・承認取得は、この「先行者優位の壁」がようやく崩れ始めたことを示す出来事だと言えます。ビジネスとしての手術支援ロボットは、高額な本体価格に加え、専用器具の消耗品収益やトレーニングプログラムを組み合わせた収益モデルを取ることが多く、RaaS(Robot as a Service)の記事で紹介したサブスクリプション型の課金モデルとも親和性の高い領域です。市場全体の投資動向はフィジカルAI市場規模まとめ2026、安全性に関する基本的な考え方はロボット安全規格2026もあわせてご覧ください。

次の一歩 🌸

外科医不足と同様の人手不足問題は介護・生活支援ロボット入門、繊細な操作技術の基礎はロボットハンド・グリッパー入門と触覚センサー入門、導入判断のROI計算はロボット導入のROI計算方法、日本の産業政策全体は日本のフィジカルAI国家戦略へどうぞ。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわフィジカルAI編集部 最終更新日:2026年9月30日

Footnotes

  1. ジョンソン・エンド・ジョンソン メドテックは、手術支援ロボット「OTTAVA」について2026年1月7日にFDAへデノボ(De Novo)分類の申請を行い、同年7月にFDAの承認(デノボ分類の取得)を得たと発表。胃切除、脾臓摘出、小腸切除、虫垂切除など複数の一般外科手術(上腹部領域)が対象。 ↩ ↩2

  2. メドトロニックは2026年6月3日、手術支援ロボット「Hugo RAS」システムについて、米国での一般外科・婦人科領域への適応拡大を目指す510(k)申請をFDAに提出したと発表。 ↩ ↩2

  3. 日本消化器外科学会によると、同学会所属の65歳未満の医師数は2025年の約1万5,200人から2040年には約9,200人へ約39%減少すると推計され、今後の手術需要を踏まえると約5,200人の不足が見込まれるとされる。 ↩

  4. 厚生労働省「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」等の資料に基づく報道による。現状の年間約500人という新規消化器外科医確保数に対し、今後は年間約900人規模の確保が必要になると試算されている。 ↩

  5. インテュイティブサージカル社の第5世代手術支援ロボット「ダヴィンチ5」は、主要コンポーネントの統合とデータ処理能力の大幅な向上が特徴。2026年1月26日、心臓弁形成術や内胸動脈剥離など、胸腔鏡下での心臓外科手術領域を対象にFDAの適応拡大(510(k)クリアランス)を取得したと発表された。 ↩

  6. 日本国内では2025年7月からダヴィンチ5の販売が開始され、2025年12月時点での国内稼働台数は870台を超える。同年に実施されたダヴィンチ手術のうち84%が悪性腫瘍の治療に使用された。 ↩

  7. メドトロニックの「Hugo RAS」システムは、2025年12月に米国で泌尿器科領域の手術に関するFDA承認を取得。すでに世界35カ国以上で商用導入された実績がある。 ↩

  8. メドトロニックは2026年9月16日、Hugo RASシステム向けの血管シーリング機器「LigaSure RAS Maryland」についてFDAの承認を取得したと発表。 ↩

  9. 株式会社メディカロイド(川崎重工業とシスメックスの合弁会社)は2026年6月、国産手術支援ロボット「hinotoriサージカルロボットシステム」について、ベトナム保健省下の医療機器当局(VIMDA)から販売承認を取得したと発表。 ↩

  10. メディカロイドは2026年7月、「hinotoriサージカルロボットシステム」が欧州医療機器規則(MDR)に基づくCEマーク認証を取得したと発表。 ↩

  11. 中央社会保険医療協議会は2018年度の診療報酬改定で、従来保険適用されていた腎悪性腫瘍手術・前立腺悪性腫瘍手術の2術式に加え、胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術、腹腔鏡下胃切除術、腹腔鏡下直腸切除・切断術など12術式を新たに保険収載する方針を了承した。これを契機に、ロボット支援手術の保険適用対象は段階的に拡大してきている。 ↩

  12. カリフォルニア大学バークレー校のケン・ゴールドバーグ教授の研究チームは、ダヴィンチの研究用プラットフォームを用い、模擬皮膚への縫合を自律的に行うロボットの研究を進めており、6針の自律縫合に成功したことが報告されている。 ↩

  13. 「SutureBot」は、ダヴィンチの研究用プラットフォーム(dVRK)上で自律縫合の性能を評価するベンチマークとして提案された研究(2025年、arXiv掲載)。針の把持・組織への刺入・結紮までを含む1,890件の縫合デモンストレーションデータを用い、刺入位置の精度がタスク特化型の手法に比べて59〜74%向上したと報告している。完全自律型の縫合パイプラインは、実機ではまだ実証されていないとされる。 ↩ ↩2

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