2026年2月、米国のCarbon Robotics社は「世界初の大規模植物モデル(Large Plant Model)」を発表しました。1億5,000万枚もの植物画像で学習させたAIモデルで、これまで数週間かかっていた新しい作物への対応を、iPadで数枚の写真を撮るだけの数分作業に短縮するといいます1。畑という「毎回条件が違う屋外環境」を相手にする農業は、フィジカルAIにとって建設現場と並ぶ最難関の一つですが、深刻な人手不足がそれでも自動化を強く後押ししています。
この記事では、なぜ農業でロボットが必要とされているのか、収穫・自動運転農機・除草/モニタリングという3つの自動化アプローチ、国内外の代表的なプレイヤー、そして日本の「スマート農業技術活用促進法」までを、ビジネス視点で整理します。
この記事で分かること
- 日本の基幹的農業従事者は2025年に103.6万人まで減少し、平均年齢は67.7歳、65歳以上が7割近くを占める
- 農業ロボットは大きく「収穫ロボット」「自動運転農機」「除草・モニタリングロボット」の3タイプに分けられる
- 国内はAGRIST・クボタ、海外はCarbon Robotics・eternal.ag・UBTECHのヒューマノイド農業応用などが存在感を強めている
- 日本は「スマート農業技術活用促進法」(2024年施行)で2030年度までの実用化目標を掲げ、税制・金融支援を後押ししている
対象読者:農業分野のロボット活用や関連ビジネスに関心がある方
執筆:ゆるふわフィジカルAI編集部 最終更新日:2026年9月15日
なぜ農業でロボットが必要とされているのか
日本の農業は、フィジカルAIが最も切実に必要とされている産業の一つです。2025年農林業センサスによると、基幹的農業従事者(農業を主な仕事とする人)は103.6万人まで減少し、2000年の240万人から25年間で56.8%も減りました。平均年齢は67.7歳、65歳以上が69.6%を占め、49歳以下はわずか12.6%にとどまります2。
農業の自動化が難しい理由
畑や果樹園は、倉庫の自動化のように環境を整えて構造化することが難しい場所です。天候・土壌・作物の生育状態が毎回変わり、同じキュウリでも実の大きさや向きは1本ごとに違います。建設・インフラ点検ロボットと同じく、屋外・不整地というロボットにとって最も厳しい条件が揃っているからこそ、農業ロボットの実用化は「収穫」「移動」「認識」といった機能ごとに部分的に進んでいます。
農業ロボットの3つのアプローチ
農業現場で実用化が進む自動化技術
収穫ロボット
AIカメラで熟した実を見分けてアームで摘み取る
自動運転農機
GPS・センサーでトラクターやコンバインの走行・作業を自動化する
除草・モニタリング
AIが雑草と作物を見分け、レーザーやカメラで生育を管理する
収穫ロボット
収穫は農業の中でも特に人手がかかる作業で、AIロボットによる自動化が世界中で進んでいます。日本のAGRIST(宮崎県新富町発のスタートアップ)は、キュウリを自動収穫するロボット「Q」を開発し、AIカメラで熟したキュウリを識別しながら24時間の夜間・連続収穫を目指しています。2026年にはレンタル形式での提供開始が予定されており、初期投資を抑えて導入できる点が特徴です3。
海外では、ドイツのスタートアップeternal.agが、温室(グリーンハウス)内で完全自律的に収穫を行うロボット「Harvester」の開発のため800万ユーロを調達しました。欧州の園芸分野で深刻化する労働力不足への対応を狙った動きです4。
収穫ロボットの難しさは『器用さ』
収穫ロボットの技術的なハードルは、対象を「見つける」こと以上に「傷つけずにつかんで外す」ことにあります。作物ごとに柔らかさ・付き方・傷みやすさが異なるため、ロボットハンド・グリッパーや触覚センサーで扱う繊細な把持技術がそのまま応用される領域です。
自動運転農機
トラクターやコンバインなど大型農機の自動運転も進展しています。クボタは2020年からNVIDIAと提携し、AIによる画像認識で「人」「動物」「雑草」などを区別できる自動運転コンバイン「アグリロボ」の開発を進めており、2025〜2026年にかけて実証・検証を重ねています5。
日本の農業機械は、安全性確保の観点から自動化レベルが段階的に定義されています。
農業機械の自動化レベル(のうぎょうきかいのじどうかレベル)
農林水産省は農業機械の自動化を3段階で整理しています。レベル1は搭乗した操縦者が自動操舵などを使う段階、レベル2は無人だが監視者が目視で見守る段階、レベル3は監視者が遠隔地からの映像等で監視するだけの完全無人段階です。現在市販されているのはレベル2までで、レベル3の実現には事故時の責任の所在など、法制度面の整備が課題として残っています6。
除草・モニタリングロボット
雑草は放置すると収量を大きく下げますが、除草剤の多用は環境負荷やコストの面で課題があります。米国のCarbon Roboticsは、AIカメラで雑草と作物を見分け、レーザーで雑草だけをピンポイントに枯らす「LaserWeeder」を展開しており、2026年2月には冒頭で触れた大規模植物モデル(LPM)を発表しました。1.5億枚の植物画像で学習したこのモデルにより、新しい作物・圃場への対応がiPadでの数枚の撮影だけで数分に短縮されるとしています1。
ヒューマノイドロボットも農業に参入
2025年12月、マレーシアのAgroz社と中国UBTECH社が提携し、UBTECHの産業用ヒューマノイド「Walker S」(身長1.7m、41関節)を垂直農場(植物工場)に導入すると発表しました。播種・モニタリング・収穫・最適化までを1台でこなす構想で、自動車工場などで実績のある汎用ヒューマノイドが施設園芸にも展開され始めている例です7。
代表的なプレイヤー:国内と海外
| 企業・製品 | タイプ | 特徴 |
|---|---|---|
| AGRIST「Q」 | 収穫ロボット | キュウリの自動収穫ロボット。AIカメラで熟度を判定し24時間稼働を目指す。2026年にレンタル提供開始予定3 |
| クボタ「アグリロボ」 | 自動運転農機 | NVIDIAと提携したAI画像認識による自動運転コンバイン。2025〜2026年に実証・検証を推進5 |
| Carbon Robotics「LaserWeeder」 | 除草・モニタリング | AIで雑草と作物を識別しレーザーで除草。2026年2月に大規模植物モデル(LPM)を発表1 |
| eternal.ag「Harvester」 | 収穫ロボット | ドイツ発、温室内で完全自律収穫を行うロボット。欧州の労働力不足への対応として800万ユーロを調達4 |
| Agroz × UBTECH「Walker S」 | ヒューマノイド | 産業用ヒューマノイドを垂直農場に導入し、播種・収穫・モニタリングを自動化7 |
103.6万人
日本の基幹的農業従事者数(2025年、25年で56.8%減)
67.7歳
基幹的農業従事者の平均年齢(65歳以上が69.6%)
1.5億枚
Carbon Robotics「大規模植物モデル」の学習に使った植物画像枚数
日本特有の事情:スマート農業技術活用促進法
日本政府は2024年に「スマート農業技術活用促進法」を施行し、同年9月には基本方針を策定しました。水田作・畑作・野菜作・果樹茶作・畜産酪農など営農類型ごとに、省力化・高度化が特に必要な技術を「重点開発目標」として示し、2030年度までの実用化を目指しています。たとえば果樹・茶作では、自動収穫機や台車ロボットの活用により、収穫・運搬作業の労働時間を60%削減するという具体的な目標が掲げられています8。
この法律の計画認定制度を活用すると、スマート農業技術の開発・供給を行う事業者は税制特例や金融支援を受けられる仕組みになっており、日本のフィジカルAI国家戦略で紹介した官民投資の流れとも重なります。導入側の農業経営体が使える支援策はロボット導入補助金2026でも整理しているとおり、国の後押しは農業分野でも強まっています。
まとめ
- 日本の基幹的農業従事者は2025年に103.6万人まで減少し、平均年齢は67.7歳と高齢化が深刻。人手不足が農業ロボット導入の最大の動機になっている
- 農業ロボットは「収穫ロボット」「自動運転農機」「除草・モニタリングロボット」の3タイプに大別できる
- 国内はAGRIST「Q」やクボタ「アグリロボ」、海外はCarbon Robotics・eternal.ag・Agroz×UBTECHのヒューマノイドなどが代表的なプレイヤー
- 日本の農業機械自動化はレベル1〜3で整理され、現在市販されているのはレベル2(無人・目視監視下)まで
- 「スマート農業技術活用促進法」(2024年施行)が2030年度までの実用化目標と税制・金融支援を打ち出している
もう少し詳しく(背景)
農業ロボットの発展は、単体の機械技術だけでなく、AI基盤モデルの進化と足並みを揃えて進んでいます。Carbon Roboticsの大規模植物モデルは、物理AI基盤モデルで紹介したような「特定用途に特化した基盤モデルを事前学習させ、現場ごとの微調整(ファインチューニング)を最小限にする」というアプローチを、植物という対象に適用した例だと言えます。作物や圃場ごとに条件が大きく異なる農業では、汎用的に学習させたモデルを現場データで素早く適応させる仕組みが、収穫ロボットや除草ロボットの実用化スピードを大きく左右します。一方で、農業ロボットは建設ロボットと同様、屋外・不整地という条件の厳しさから技術的な難易度が高い領域でもあり、ロボット導入のROIを具体的に見積もりながら、レンタルやRaaS(Robot as a Service)のように初期投資を抑えた形で導入するアプローチが広がっています。AGRISTのレンタルモデルも、この流れに沿った動きです。国内での産業政策全体の位置づけは日本のフィジカルAI国家戦略、市場全体の動向は2026年の市場動向まとめもあわせてご覧ください。
次の一歩 🌸
建設現場での自動化との共通点は建設・インフラ点検ロボット入門、倉庫での自動化は物流倉庫の自動化2026、日本の産業政策全体は日本のフィジカルAI国家戦略、導入時に使える補助金はロボット導入補助金2026へどうぞ。
参考資料・出典
- 農業従事者数は103.6万人・平均年齢67.7歳【2025年最新】25年で56.8%減|基幹的農業従事者の推移データ先端農業マガジン。2025年農林業センサスに基づく基幹的農業従事者数・平均年齢のデータ
- AGRIST、24時間収穫を実現するキュウリ自動収穫ロボット「Q」を発表 2026年にレンタル開始予定SMART AGRI。AGRISTのキュウリ自動収穫ロボット「Q」の発表内容
- Shaping Agriculture's Future: Reproducing Expert Skills with Automated and Unmanned Combine Harvestersクボタ公式。自動運転コンバイン「アグリロボ」の開発経緯とNVIDIAとの提携
- Carbon Robotics Launches the World's First-Ever Large Plant ModelGlobal Ag Tech Initiative。Carbon Roboticsの大規模植物モデル(LPM)発表内容
- German start-up Eternal.ag secures €8M to launch fully autonomous greenhouse harvesting robotAgNavigator。eternal.agの温室自律収穫ロボット「Harvester」と資金調達に関する報道
- Agroz Inc. Announces Launch of Agroz Robotics with UBTECH to Integrate AI-Robotics Technology into Farm Operating SystemPR Newswire。AgrozとUBTECHのヒューマノイド「Walker S」を活用した垂直農場自動化の発表
- スマート農業技術活用促進法について農林水産省公式。スマート農業技術活用促進法の基本方針・重点開発目標に関する解説
- 農業機械の安全性確保の自動化レベル(概要)農林水産省公式資料。農業機械の自動化レベル1〜3の定義
ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。
執筆:ゆるふわフィジカルAI編集部 最終更新日:2026年9月15日
Footnotes
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Carbon Roboticsは2026年2月2日、1億5,000万枚以上の植物画像で学習した「大規模植物モデル(Large Plant Model)」を発表。同社のレーザー除草機「LaserWeeder」と自律走行キット「Autonomous Tractor Kit」を強化し、iPadで数枚の画像を撮影するだけで新しい作物・圃場に短時間で対応できる「Plant Profiles」機能も同時発表した。 ↩ ↩2 ↩3
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農林水産省「2025年農林業センサス」によると、基幹的農業従事者数は2025年に103.6万人となり、2000年の240万人から25年間で56.8%減少した。平均年齢は67.7歳で、65歳以上が69.6%、49歳以下は12.6%にとどまる。 ↩
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株式会社AGRISTが開発するキュウリ自動収穫ロボット「Q」。AIカメラで熟度を判定し、夜間・24時間稼働による収穫の実現を目指す。2026年にレンタル形式での提供開始を予定している。 ↩ ↩2
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ドイツのアグリテック・スタートアップeternal.agは、温室内で完全自律的に収穫作業を行うロボット「Harvester」の開発・展開のため800万ユーロを調達。欧州の園芸分野における慢性的な労働力不足への対応を狙う。 ↩ ↩2
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クボタは2020年にNVIDIAと提携し、AIによる画像認識で「人」「動物」「雑草」などを区別できる自動運転農機の開発を推進。無人自動運転が可能なコンバイン「アグリロボ」について、2025〜2026年にかけて実証・検証を進めている。 ↩ ↩2
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農林水産省は農業機械の自動化を、レベル1(搭乗操縦者による自動操舵等)、レベル2(無人・監視者による目視監視下)、レベル3(監視者が遠隔地から映像等で監視する完全無人)の3段階で整理している。2026年時点で市販されているのはレベル2までで、レベル3の実現には事故時の責任分担など法制度面の整備が課題となっている。 ↩
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マレーシアのAgroz Inc.は2025年12月、中国UBTECH Roboticsと提携し、産業用ヒューマノイド「Walker S」(身長1.7m、41の関節を搭載)を垂直農場(植物工場)に導入すると発表。播種・モニタリング・収穫・栽培最適化の自動化を目指す。 ↩ ↩2
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農林水産省は2024年に「スマート農業技術活用促進法」を施行し、同年9月に基本方針を策定。水田作・畑作・野菜作・果樹茶作・畜産酪農等の営農類型ごとに「重点開発目標」を設定し、2030年度までの実用化を目指す。果樹・茶作では自動収穫機・台車ロボット等により収穫・運搬作業の労働時間を60%削減する目標を掲げている。計画認定制度を通じた税制特例・金融支援も用意されている。 ↩
ゆるふわフィジカルAI